妊娠高血圧症候群とは

症状

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妊娠高血圧症候群のおもな症状は、高血圧・たんぱく尿・むくみです。これまで高血圧を指摘されたことのない人が、妊娠20週~産後12週の間に高血圧になることを「妊娠高血圧症候群」といいます。

高血圧とは、
・収縮期血圧(最高血圧)140mmHg
・拡張期血圧(最低血圧)90mmHg

以上を指します。高血圧に加え、尿たんぱくが一日あたり0.3g出ている場合は、妊娠高血圧腎症といいます。

むくみは尿たんぱくが出ている結果起こる症状です。なお、もともと高血圧症がある人が妊娠した場合は「高血圧合併妊娠」といって、妊娠高血圧症候群とは区別しています。

このような人も妊娠高血圧症候群になる可能性はあり、その時は「加重型妊娠高血圧症候群」と呼びます。

血圧と蛋白尿の値による分類

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妊娠高血圧症候群は、症状と発症した時期によって分類されています。

血圧は、
・140/90mmHg以上を軽症
・160/110mmHg以上を重症

たんぱく尿は、
・1日あたり0.3g以上を軽症
・2g以上を重症

とします。発症時期が32週未満の場合を早発型、32週以降の場合を遅発型とします。遅発型に比べ、早発型は悪化しやすいため、かなり注意してみていかなくてはいけません。

原因

どうして妊娠高血圧症候群になるのか、というそもそもの原因ははっきりわかっていません。しかし、妊娠高血圧症候群の人の胎盤を顕微鏡でみると、胎盤の血管がうまくできていないことが多い、ということがわかっています。

胎盤の血管がうまくできていないために、赤ちゃんが大きくなるにつれて十分な量の酸素や栄養分が送れなくなり、それを無理やり押し流そうとすることでママの血圧が上がるという仕組みだと考えられています。

なりやすい人

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日本では妊娠高血圧症候群は全妊婦の3~5%がかかっている病気です。妊娠前から何らかの持病(糖尿病や腎臓病など)がある人、肥満の人、15歳未満または35歳以上の人、多胎妊娠などが妊娠高血圧症候群になりやすいとされています。

また、以前の妊娠時に妊娠高血圧症候群になった人もなりやすいです。次の妊娠で妊娠高血圧症候群になる可能性は、そうでない人の7倍という報告があるのです。

妊娠中毒症との違いは

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先ほど出てきた通り、妊娠高血圧症候群のおもな症状は高血圧・たんぱく尿・むくみです。以前は、どれかひとつでも出てきた場合は「妊娠中毒症」とされていました。

しかし、研究が進むにつれ、妊娠中毒症の中で最も注視すべきなのは高血圧である、ということがわかってきました。このため「妊娠中毒症」という呼び名から、文字通り高血圧を中心に据えた「妊娠高血圧症候群」という病名になりました。

高血圧はなくてたんぱく尿だけ、という場合は、以前なら妊娠中毒症とされていましたが、今は妊娠高血圧症候群にはあたりません。妊娠たんぱく尿という名前になり、問題ないとされています。

妊娠高血圧症候群によるママへの影響

子癇(しかん)

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けいれんのことです。血圧が急上昇すると起こりやすくなります。けいれんしている間に脳の中の血管が破れて出血を起こしたり、脳がむくんで大きくなり頭蓋骨から出てしまう脳ヘルニアという状態を起こしたりする可能性があり、命の危険があります。

また、けいれんを起こしている間はママが呼吸をしていないので、赤ちゃんも低酸素状態になり、やはり命の危険があります。

前兆としては、頭痛、頭が重い感じ、目の前がチカチカするなどがあります(なんの前ぶれもなく起こることも、もちろんあります)。もしこういった症状がある場合は、すぐにかかりつけの病院に連絡しましょう。

HELLP(ヘルプ)症候群

溶血(「H」emolysis)、肝酵素の上昇(「EL」evated liver enzyme)、血小板減少(「L」ow 「P」latelets)から頭文字をとってこう呼ばれます。

血液の異常(赤血球が壊れ、血小板が減る)や、肝臓の異常をきたす病気で、血液検査でわかります。主に妊娠後期~産後に起こり、特徴的な症状はみぞおち付近の痛み、吐き気です。

「なんか胃が痛い」と思ってほったらかしてしまいそうですが、治療が遅れると30%が命を落とす、とても怖い病気です。

肺水腫

妊娠高血圧症候群がひどくなると、血管から外に水分が染み出しやすくなります。その結果、肺にも水がたまってくることがあり、これを肺水腫といいます。咳や息苦しさ、動悸が起こります。

妊娠高血圧症候群による赤ちゃんへの影響

常位胎盤早期剥離

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胎盤の位置には問題がないのに、赤ちゃんがまだ生まれていないうちに胎盤が剥がれることをいいます。胎盤が剥がれてしまっては、赤ちゃんは酸素を取り込むことができません。

そのため赤ちゃんの死亡率は30~50%ととても高いです。お母さんもかなり出血するので、血を固める成分が使い果たされ、血が止まらなくなることがあります。

妊婦さんの死亡率も5~10%と、決して低くありません。全妊婦さんの0.5~1%に起こりますが、妊娠高血圧症候群の人はそうでない人に比べ、常位胎盤早期剥離になりやすいことがわかっています。

おなかがカチカチになり、強い痛みがあらわれます。陣痛と違うのは、痛みに波がないことです。

胎児発育不全と胎児機能不全

妊娠高血圧症候群では、ママが血圧を上げなければいけないほど胎盤の血流が悪くなっています。赤ちゃんにとっては、酸素や栄養分がなかなか流れてこないということでもあります。

このため、赤ちゃんが週数のわりに小さいことがあります。また、赤ちゃんの心拍が一時的に落ちる、胎児機能不全という状態になることもあります。

妊娠高血圧症候群の治療

食事療法

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軽症のうちはまず、食事療法と安静から始めます。食事療法は、主にエネルギー、塩分、たんぱく質の制限などがあります。食事療法については後で詳しくお話しします。

安静

妊娠高血圧症候群の人は、なぜか血圧が普段より刺激に対して敏感になっています。例えば、面会の人が来たとか、テレビやスマホなど光を発する機械を眺めていたといった、普段ならなんともないようなことで、血圧がぐんと上がります。

そのため、妊娠高血圧症候群になったら、なるべく刺激から避けるように、安静にしてもらいます。テレビなどもやめ、部屋の電気を落として暗めにします。

薬物療法

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食事療法を行い、安静にしても血圧が上がってくる場合は血圧を下げる薬(降圧薬)を使用します。ただし、降圧薬はあくまで対症療法にすぎません。赤ちゃんがおなかの中で大きくなるのを1日でも待つための時間稼ぎと思っていただけたらいいと思います。

まずは少量の飲み薬から試していき、徐々に量を増やしていきます。あまり効果が見られない場合は点滴に変更します。さらに、降圧薬だけでなく子癇を予防する薬を点滴することもあります。

実は妊婦さんが飲める降圧薬は限られています。高血圧症に対してひろく一般に処方されている降圧薬の多くは、羊水が減る、ひどい場合は胎児死亡に至るなど、重篤な悪影響を赤ちゃんに及ぼすことがわかっています。

妊娠の終了

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原因が胎盤である以上、いちばんの治療法は妊娠の終了、つまり赤ちゃんを産むことです。出産の時期については状況を見ながら検討します。

赤ちゃんは週数が経つごとに外で生きていくための機能が備わっていくので、できるだけ待ちたいところではあります。しかし、あまり待っているとママの血圧がどんどん上がり、逆に赤ちゃんを危険にさらすことになるので、延ばせばいいというものではないのです。

ママの全身の状況と、赤ちゃんの未熟さを天秤にかけて、適切な時期を選びます。陣痛誘発でお産できることもありますが、ふつうは陣痛が来ると血圧がさらに上がるので、帝王切開となることが多いです。

具体的な食事療法

まずBMI値と理想体重を計算しましょう

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体格を表すのに医学上よく用いられる、BMI(Body mass index)という値があります。これは、「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計算されます。例えば、身長160cm、妊娠前の体重60kgの人なら、60÷1.6÷1.6=約23.4ということになります。

このようにして計算して出てきた値があなたのBMIです。次に、理想体重を計算してみましょう。見た目とは関係なく、医学上はBMI22が理想体重とされています。つまり、「身長(m)×身長(m)×22」が理想体重になります。160cmの人ならおよそ56kgです。

エネルギー(総カロリー)制限

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先ほど計算したBMIを踏まえて、エネルギー制限をします。妊娠前のBMIが24以下の人は、理想体重(kg)×30kcal+200kcalを摂取していい総カロリーです。

160cm、60kgの人なら1890kcalということになります。妊娠前のBMIが24を超えている人は、理想体重(kg)×30kcalにとどめましょう。

塩分制限、減塩

一日あたりの塩分量は7~8gに減らしましょう。下ごしらえに使う調味料を減らして、食べる前につけるようにしたり、酢やレモンなどで酸っぱい味にしたりするのが良いでしょう。ショウガやネギ、わさびといった薬味やゴマなども塩味をつけずに風味を変えてくれますよ。

水分制限はほとんどが不要

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腎臓が傷んできて尿の量が著しく減っている場合や、肺水腫を起こした場合以外は水分制限の必要はありません。のどが乾かない程度に水を飲みましょう。

その他

急激な体重増加は妊娠高血圧症候群を悪化させます。動物性脂肪はなるべく控えるようにし、ビタミン類はしっかり摂りましょう。

そのほかに魚の油や、海藻類が良いという報告や、予防にカルシウムやマグネシウムを多く摂るのが良いという報告もあります。

妊娠高血圧症候群は予防できる?

早期発見は妊婦健診に通うこと

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「こうしていれば妊娠高血圧症候群にならない」といえるほどの予防法はありません。ただし、脂質のとりすぎなど体重の増加を招くような食生活や、塩分のとりすぎはいけないとされています。

塩分は一日あたり10g以下にとどめましょう。しかし、逆に過度の食事制限・塩分制限も危険ですのでしないようにしてください。

早期発見の第一歩は、きちんと妊婦健診に通うことです。妊婦健診では血圧測定、尿検査、むくみのチェック、体重測定が毎回行われており、妊娠高血圧症候群を早くみつけられるようになっています。

産後への影響は?

子癇やHELLP症候群には引き続き注意を

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産後数日たっても、子癇やHELLP症候群を起こす可能性は十分あります。上に書いたような症状があるときはすぐに病院に相談しましょう。

産後も高血圧、尿たんぱくが続く

一般的には妊娠が終了すると、妊娠高血圧症候群は改善していきます。しかし重症であればあるほど、産後に血圧が下がりにくく、降圧薬が必要になることもあります。

赤ちゃんを産んだからといって油断せず、退院後も家で朝夕の血圧を測る必要がある場合は、きちんと指示に従いましょう。

分娩後3ヶ月経っても血圧が高いままだったり、たんぱく尿が出ていたりする場合は、ほかの病気が隠れていることがあります。

赤ちゃんがいるとなかなか病院に行きづらいのですが、ママが健康かどうかは赤ちゃんにとってとても大事なことですので、きちんと検査を受けましょう。

中高年になってから出る症状

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妊娠高血圧症候群になった人は、そうでない人に比べて後々、高血圧症・糖尿病・脂質異常症・脳血管障害などを起こす可能性が高くなるというデータがあります。

産後、血圧が元に戻っても、妊娠中の食事制限ほどでなくとも健康的な食生活を継続し、徐々に適度な運動も取り入れていくなど、将来のことを見越して生活していきましょう。

妊娠高血圧症候群に関する体験談

妊娠高血圧症候群と診断され帝王切開に

shunmamaさんからの体験談:
妊娠後期に、前置胎盤と診断され、帝王切開になる覚悟をしておくように医師に言われました。

羊水過多になり、管理入院になりました。3日ほど入院したのですが、高血圧になり夜もあまり眠れなくなり両足がむくみ、妊娠高血圧症候群と診断されました。

次の日、帝王切開での出産が決まりました。体調がきつくて、早く出してという感じでした。麻酔は効いていましたが意識はあり、きちんと赤ちゃんと対面できました。

でも、術後のことを考えると、自然分娩したかったなという思いもあります。無事に出産できたのが、何よりです。

まとめ

妊娠高血圧症候群の症状や原因などについてご説明させていただきました。怖い病気だからこそ、病院だけでなく、家庭でもきちんとした管理が必要です。

妊婦健診で「少しずつ血圧が上がっているね」と言われたら、しっかり気を付けていきましょう。

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