目次
股関節脱臼とは
赤ちゃんが発症する確率は?

足の付け根の関節がずれたり、はずれたりする病気で、正式には発育性股関節形成不全といいます。生まれたばかりの赤ちゃんの筋肉や靭帯は発達している途中ですので、股関節は不安定な状態です。
この状態のときに赤ちゃんの自然な姿勢を妨げてしまうと、脱臼してしまうことがあります。赤ちゃんにとって自然な姿勢とは、仰向けに寝かせたときに股関節と両膝が曲がるM字の姿勢です。
そのため、膝が上を向く立て膝の姿勢や膝が内側に向いた内股気味の姿勢だと、脱臼しやすくなるのです。なお、股関節脱臼になる確率は0.1~0.3%で、女の子の方がなりやすいことがわかっています。
先天性股関節脱臼
こうした関節の脱臼は、以前は先天性股関節脱臼と呼ばれていました。先天性、つまり生まれつきのものだと考えられていたのですが、ほとんどの場合が生まれてから発症することがわかったため、発育性股関節形成不全に名前が変わりました。
なお、まれに本当に脱臼した状態で生まれてくることもあります。これは、お腹の中にいるときに何らかの要因で力がかかり脱臼することが原因です。ただ、多くは逆子の赤ちゃんであり、分娩時に足を引っ張ったために脱臼するといわれています。
股関節脱臼の症状
完全脱臼
股関節には、大腿骨(ふとももの骨)を支える臼蓋という部分があります。この臼蓋から大腿骨頭が完全にはずれてしまっている状態です。完全脱臼の場合は、足の動きが悪いので比較的わかりやすく、触診だけでも判断が可能だといわれています。
亜脱臼
大腿骨頭は臼蓋からはずれていませんが、はずれかかっている状態です。非常に不安定な状態であるため、何かの拍子に完全にはずれてしまう危険性があります。亜脱臼の場合はわかりにくく、触診だけでは判断できないこともあるようです。
臼蓋形成不全
臼蓋が順調に発達しないことを臼蓋形成不全といいます。臼蓋形成不全であると股関節の中に大腿骨がしっかりはまることができず、関節がすりへってしまったり、脱臼してしまったりしやすくなります。亜脱臼と同様に、触診だけでは判断できないことがあります。
後遺症はある?
股関節脱臼の後遺症には、骨頭変形や大腿骨頚部の変形などがあります。これらは股関節部分の骨の変形によって痛みが生じる病気です。
また、股関節がうまくかみあわない状態で大人になると、変形性股関節症(骨盤と大腿骨をつなぐ軟骨の形が変わったりする病気)を発症することもあります。
なので、脱臼が治ったあとも、同じ病院で年に一度など、定期的に診てもらうと良いでしょう。なお、体重が増えるとそれだけ股関節に負荷がかかります。
もちろん成長にしたがって増える分には問題ありません。ただ、あまり体重が重いと影響がでてきますので、太りすぎには注意しましょう。
股関節脱臼の発見・チェック方法
足の動きを確認しよう

大人が脱臼になると、強い痛みを感じます。ですが、赤ちゃんは脱臼しても、痛みや違和感といった自覚症状がありません。
ぐずったり泣いたりすることもなく、足も動かしますので、病気が見過ごされてしまうことも少なくありません。
股関節脱臼は、生後3~4ヶ月で発症することが多いです。1ヶ月健診や3~4ヶ月健診でも、
・足がしっかり開くかどうか
・左右の足が対称に開くかどうか
などの点から、股関節が脱臼していないかチェックしてもらえますが、残念ながら見落とされてしまうケースもあるようです。
早期に病気に気づくことができれば治療も短期間で済みますので、赤ちゃんが生後3~4ヶ月になったらご自宅でもチェックすることをおすすめします。チェック項目に該当するようでしたら、病院で診てもらいましょう。
太もものしわの数が違う
股関節を脱臼すると、脱臼している側の皮膚はたるんでしわが多くなります。無理に押さえつけると症状が悪化することもありますので、赤ちゃんの機嫌が良い時にでもそっと足をそろえてチェックしてみましょう。
太もものしわの数や長さ、深さに違いがみられたら、脱臼している可能性があります。先天性股関節脱臼しているかどうかの確認は、この太もものしわを観察する方法が一番わかりやすいといわれています。実際に、太もものしわがきっかけで脱臼に気づくケースが非常に多いようです。
両足を立てた時に膝の高さが違う
太もものしわの他にも、股関節脱臼をチェックできるポイントがあります。それは膝の高さです。まずは仰向けに寝せましょう。それからそっと足を曲げ、両膝の高さを見てみましょう。
脱臼している場合は、脱臼している側の膝の高さが低くなります。というのも、脱臼していると大腿骨頭が落ち込みますので、そのぶん膝の高さが低くなるのです。
おむつが付けづらい
脱臼していると、片側だけ腰がでっぱります。おむつのサイズは適切なのに、いつも片側だけおむつを付けにくい…というときは脱臼しているかもしれません。
もちろん、ママの利き手側かそうでないか、ということもありますので、おむつの付けにくさだけで脱臼しているとは言い切れません。ただ、可能性はありますので、上記の項目にも該当するかチェックしてみましょう。
また、脱臼していると股関節を動かした際にポキポキと音が鳴ることがあります。音がすれば脱臼しているとは言い切れませんが、可能性はありますので、上記の項目もチェックしてみると良いでしょう。
股関節脱臼の治療
レントゲン検査で確認

完全脱臼のように明らかに足の動きが悪い場合は触診だけで判断されることもありますが、判断が難しい場合はX線撮影(レントゲン)や超音波検査(エコー)を行います。
その結果から、その後の治療方法を決めていきます。こうした検査は、健診などで股関節脱臼の指摘がなくても受けることができます。
前述のチェック項目に該当するなど、脱臼の可能性がある場合は病院で診察と検査をしてもらいましょう。なお、X線撮影での放射線被爆量はわずかであり、問題はありません。
装具「リーメントビューゲル」を利用
脱臼の可能性がある場合や、臼蓋成形不全のような軽度の脱臼である場合は、おむつの当て方や抱っこの仕方などに気をつけながら経過を見ていきます。軽度であれば、特に処置などを行わなくても治っていくことが多いです。
ただ、完全脱臼である場合などは、リーメンビューゲルという装具をつけて脱臼を治していきます。装着期間は3~4ヶ月と少し長いですが、生後3~6ヶ月のうちに治療を始めれば、亜脱臼は100%、完全脱臼でも90%が治ります。
入院が必要な場合も
リーメンビューゲルを装着しても良くならない場合は、入院して牽引療法を行うことがあります。病院によって牽引方法は違いますが、基本的にはベッドに横になった状態で足を固定し、引っ張っていきます。
大腿骨の骨頭が正しい位置におさまったら、股関節を安定させていきます。なお、脱臼が重度であったり、生後7ヶ月以降であったりする場合は、先に牽引療法を行ってからリーメンビューゲルを装着することもあります。
こうした治療で治ることがほとんどですが、それでも良くならないことはまれにあります。その場合は手術を行い、脱臼を治療します。
治療期間はどれくらい?
リーメンビューゲルを装着すると、1週間ほどで大腿骨頭は正しい位置におさまってくるといわれています。ただ、この時点ではまだ不安定ですので、3~4ヶ月は装着を続けて経過をみます。
なお、個人差がありますので、こうした治療期間はあくまでも目安です。医師と相談しながら治療をすすめていきましょう。また、牽引療法にはいくつか方法がありますが、いずれも治療には長期間かかります。
赤ちゃんはもちろん、パパやママの負担も大きいですが、しっかり治療すれば治っていくことが多いですので、気長に構えて乗り切りましょう。
股関節脱臼を予防するには
おむつは正しい当て方で

仰向けに寝かせたときに両膝と股関節が曲がるM字の姿勢が、赤ちゃんにとって自然な姿勢です。そのため、急激に強く足を持ち上げたり、無理に足をまっすぐにした状態でおむつ交換などを行ったりすると、脱臼してしまうことがあります。おむつ交換をするときは、腰を下から持ち上げるようにしてあげましょう。
抱っこの仕方に気をつけよう
同様の理由で、足を伸ばした状態で抱っこしたり、寝かせたりしていると脱臼しやすくなります。特に生後3ヶ月くらいまでは注意が必要です。
そのため、赤ちゃんの足を伸ばした状態で抱っこする、横抱きは控えましょう。赤ちゃんを抱っこするときは、股の間に手を入れる抱っこや、コアラ抱きが良いです。
コアラ抱きとは、赤ちゃんの股関節と両膝がM字に曲がった状態で、ママの胸にしがみつかせるような抱き方です。また、おくるみなどを使うと足を伸ばした状態で固定されてしまうので、これも良くありません。
股関節脱臼は冬生まれの赤ちゃんがかかりやすいという報告がありますが、これはおくるみをつかう機会が多いからだといわれています。足が自然に動かせる状態で寝かせてあげましょうね。
足を動かしやすいゆったりとした服
ゆとりのない服だったり、生地が硬かったりすると、足を外から締め付けてしまい、足が伸ばされてしまいます。赤ちゃんにあったサイズのものややわらかい素材のものを選んであげましょう。
なお、赤ちゃんの自然な姿勢に合わせたカエル型ロンパースなどは足の動きを妨げないのでおすすめです。また、おむつもサイズがあっていなかったり、パンツタイプだったりすると、やはり足を締め付けてしまいます。赤ちゃんが小さなうちはおむつはテープタイプを選び、きつく締めすぎないようにしましょう。
赤ちゃんの向き癖

赤ちゃんが一方向ばかり向く向き癖も、脱臼の原因になることがあります。というのも、片方に顔を向けると、顔が向いている方向とは反対側の足が立て膝の姿勢になりやすいからです。
赤ちゃんに向き癖がある場合は、赤ちゃんが寝ているお布団やマットの下にタオルなどを入れ、よく向く側を少し持ち上げてあげると良いでしょう。
少し持ち上げておくとそちら側には向きづらくなりますので、徐々に向き癖が治ってくることがあります。また、よく向く側とは反対側から話しかけたりあやしたりするのもおすすめです。
赤ちゃんの股関節脱臼に関する体験談
自覚症状がなく見逃していた
emi123さんからの体験談:
痛がったり、泣いたりすることもなかったために、今まで気が付かず見逃しておりました。おむつを替える時に、脚の向きなどに違和感をおぼえました。いつも片側に、脚を寄せてしまいます。また、股関節にもでっぱりがありました。
定期健診で偶然みつかった
emi123さんからの体験談:
定期健診のさいに、偶然、みつかりました。医者から、股関節脱臼だと指摘され、すぐに、レントゲンをとりました。
ゆとりのある服装に
おっぽさんさんからの体験談:
股関節脱臼気味という事だったので、3ヶ月毎の経過観察でした。なるべくゆとりのある洋服を着せる事(特にズボン)を指示されました。なので、普通のズボンではなく、モンキーパンツ(股の部分がしっかりある)を履かせるようにしていました。
専門機関へのご相談はこちら
※夜間休日、お子さまの健康状態に心配なことがある場合や受診の目安に迷った場合は子ども医療電話相談♯8000に相談をおすすめします。
厚生労働省・子ども医療電話相談事業
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/10/tp1010-3.html
まとめ
脱臼のしやすさには赤ちゃんの体質なども関係します。ただ、日常生活を送る上で股関節に負担をかけないように気をつけていけば、ある程度は脱臼を防げるともいわれています。
一度、股関節脱臼になってしまうと、治療には少なくとも数ヶ月かかってしまいます。まずは脱臼しないよう気をつけてあげましょう。(文章作成:米奉行 医療監修:しゅうぴん先生)
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