目次
なぜ妊娠中に腰痛が起こりやすいのか
ホルモン分泌や体重増加にともなう姿勢の変化
妊娠すると母体は出産にむけて様々な体の変化が起こります。そのひとつがホルモン分泌です。このホルモンの作用により、骨盤がゆがみやすくなります。
ゆがんた骨盤では、骨盤より上の上半身の体重を支えるのは困難で、補うように腰(腰椎)に負担がかかるようになります。腰に過負荷が続くことで痛みがではじめるのです。
また胎児の体重が増加するとともに、お腹は前に突き出すように大きくなっていきます。
前に大きくなったお腹のバランスをとるため、体は反るような姿勢をとるようになり、この姿勢は腰へ負担がかかり、体重増加にともなって腰への負担も増える一方です。
ホルモンによる妊娠中の腰痛
女性の生殖機能とホルモン

ホルモンという言葉はよく耳にすると思いますが、もう少し専門的にご説明します。体の機能を調節する二大調整系には、内分泌系と神経系に分けられます。
内分泌は、化学物質が分泌細胞から「血液中に放出される」現象のことです。この化学物質のことを「ホルモン」と呼びます。
女性の生殖機能を調節するのに、このホルモンの働きはかかせません。女性の生殖機能は、周期的に1個の卵子が卵巣で作られ、排卵して子宮へ向かいます。
このとき子宮では、受精した場合の受精卵を受けとめるベッドのような存在として、子宮内膜が厚くなっています。
受精しなかった場合に、この子宮内膜は剥がれおちて体外に排出されます。これが「月経」です。
この卵巣の周期的活動は、脳の視床下部ー下垂体からつくられるホルモンと卵巣でつくられるホルモンの相互作用によって調節されています。
妊娠中においても、様々なホルモンによって調節されているのです。
妊娠中に分泌されるホルモンが骨盤のゆがみがもたらす
妊娠中に分泌されるホルモンのひとつに「リラキシン」があります。リラキシンは月経前や妊娠初期から分泌されるホルモンです。
このホルモンは卵巣から分泌され、子宮の弛緩や恥骨結合をゆるめる作用をもっています。恥骨結合が緩まることで骨盤がゆがみやすくなるのです。
もう少し具体的にご説明しましょう。
骨盤は左右の寛骨(腸骨・坐骨・恥骨)、仙骨、尾骨から成り立っています。
恥骨結合は通常靭帯により補強され、ほとんど可動性のない結合ですが、リラキシンの作用により、数ミリ単位で可動性がうまれます。
また、左右の腸骨と仙骨の間の関節を仙腸関節といいます。
この関節も複数の強靭な靭帯で補強されているので可動性はほとんどありませんが、恥骨結合と同様に、妊娠中や出産時に結合がゆるんで大きな動きがみとめられます。
恥骨結合や仙腸関節のゆるみは、あかちゃんが狭い産道を通るときに、とおりやすくする大切な反応です。
しかし骨盤のゆがみを引き起こす原因にもなっています。
骨盤のゆがみが腰痛を引き起こす
骨盤は内臓を保護すると同時に、骨盤より上の上半身(体幹や上肢)の重みを支え、その荷重は骨盤をとおして両側の下肢に分散させる役割をもっています。
主にリラキシンの分泌によって、骨盤のゆがみが生じると、うまく体重を支える機能が働きません。
不安定な骨盤の代償として、骨盤と連結している腰(腰椎)に負担がかかってきます。
腰部の筋肉、軟部組織(靭帯や腱)の過負荷が痛みの原因となるのです。
また妊娠中の仙腸関節のゆがみにより、仙腸関節そのものに痛みが生じることがあります。
産後の腰痛に仙腸関節障害が多いともいわれています。
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姿勢・筋肉疲労による妊娠中の腰痛
妊娠により母体の体型が大きく変化する
妊娠40週のあいだに、あかちゃんの成長に合わせ母体は10~12㎏程度、体重が増加します。
内訳は、
あかちゃん 3㎏
胎盤・羊水 1.5㎏
乳房・子宮 1㎏
血液 1.5㎏
水分 1.5㎏
皮下脂肪 2~3㎏
体重が増えることは自然なことで、適正な体重増加はとても重要なことです。
しかし、お腹が前に突き出すように大きくなることで体の重心は前方へ移動します。
前方へ崩れた重心のバランスをとるには、背筋を使ったり、腰から体を反らすような姿勢でバランスをとります。
この反らす姿勢が腰への負担を増加させてしまうのです。
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体を反る姿勢でおこる腰痛

体を反るとどうして腰に負担がかかるのでしょうか。
背骨は専門的には脊柱といいます。脊柱は頸椎・胸椎・腰椎・仙骨・尾骨が連結した骨格です。
脊柱の中には脊髄という大事な神経が通っています。
脊柱は横から見ると、ゆるやかなS字に彎曲しています。
頚部と腰部では前方に彎曲(前彎)、胸部で後方に彎曲(後彎)し、頭部と体幹(頚部・胸部・腰部)を支える働きがあります。
腰椎は最も大きく頑強な骨ですが、ヒトは体幹が直立して二足歩行を獲得する上で、腰椎の前彎が強くなったといわれています。
特に、腰椎と仙骨のあいだ(腰仙椎移行部)に大きく負担がかかりやすく、椎間板ヘルニア、腰椎すべり症、腰椎分離症の好発部位ともいわれています。
そして体を反らせる支点は腰椎になります。骨の形状上、腰椎が最も後ろに反らすのに可動性が大きいからです。
このような腰椎の特徴から、腰に大きな負担がかかり痛みもでやすいのです。
腰部の疾患が多いのもこのためです。脊髄まで影響すれば足のしびれなどの神経症状がでます。
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妊娠中の腰痛で湿布は使えるの?
市販薬すべてにおいて、医師・薬剤師に相談しましょう!
妊娠中、服薬するときは注意が必要だと知っている方も多いと思いますが、湿布薬にも注意が必要です。
厚生労働省の事業のひとつとして、国立成育医療研究センターの中に「妊娠と薬情報センター」を設置しています。
このセンターでは、妊娠中の方や妊娠を計画中の方にお薬に関する相談業務を行っています。
このホームページ内「ママのためのお薬情報」の中で湿布に関する内容が記載されています。
腰痛で湿布薬を使用したい場合、必ず担当の産婦人科医、薬剤師に相談してください。
出典:www.ncchd.go.jpQ.湿布薬などの身近な薬でも注意を払う必要がありますか?
A.湿布薬であっても同時に大量使用すると血液中の薬物濃度が上がる可能性があります。
消炎鎮痛剤の成分によっては妊娠末期の使用によって動脈管早期閉鎖を起こす危険性がありますので、医師、薬剤師にご相談ください。
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妊娠中に腰痛を緩和する対策は?
温めて血行改善により痛みを緩和

腰痛を緩和するための方法に温熱療法があります。
温熱によって血管を拡張し、循環改善や軟部組織(靭帯や腱)の伸張性を高めることができます。
循環改善は組織に酸素や栄養素をいきわたらせ、逆に疲労物質を排出するため、痛みの緩和につながり筋肉や軟部組織の硬さを軽減できます。
温める方法としては「腰を直接温める」「入浴などで全身を温める」方法があります。
直接腰を温める場合は、濡れたタオルをビニール袋にいれ電子レンジで温めて蒸しタオルを作ったり、
カイロや湯たんぽを利用することがおすすめです。
使用するときは低温やけどに十分注意してください。
入浴する場合は、湯温は38℃~40℃のゆるめの温度がおすすめです。
リラックス効果も期待できます。
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ストレッチや体操で気分もリフレッシュ!
痛みによって体を動かさないと運動不足になり、悪循環を招きかねません。
できる範囲でストレッチや体操をして、気分もリフレッシュしましょう!
ここでは腰回りを意識した簡単なストレッチや体操をご紹介します。
・猫のポーズ
床の上で四つ這いの姿勢をとります。
息を吐きながら背中をまるくします。おへそを見るようなイメージです
一度四つ這いに戻って、息を吸いながら顔を上げ胸を張って腰を反らします。
※腰痛が強い方や足のしびれなど神経症状がでている方は無理しないでください。
・骨盤底筋群の体操(ケーゲル体操を基本にしています)
骨盤底筋群は、子宮や膀胱などの内臓が下に下がらないように支えている筋群です。
この筋群が弱いと尿漏れの原因にもなります。
産後はこの骨盤底筋群が弛緩してしまうため、尿漏れを訴える女性が多いのです。
まず仰向けに横になって両膝を立てます。
肛門と膣を締め、息を吸いながら肛門、膣を胃のほうへ吸い上げるように力を軽くいれます。
そのまま3秒待って力を抜きます。一度に5回程度おこなってください。
次に同じイメージのまま、骨盤の恥骨側を上へ転がすように少しだけ持ち上げます。
ゆっくり持ち上げ、ゆっくり下げる動きを一度に5回~10回程度おこなってください。
その他にはマタニティエクササイズはおすすめです。
・マタニティヨガ
・マタニティスイミング
・マタニティビクス
マタニティエクササイズを行う場合は、担当の産婦人科医に相談し、腰の状態に合わせて市町村で運営しているもの、一般のスクールなどを利用してみてください。
今回、ご紹介したスポットの詳細はこちら
正しい姿勢・リラックスできる姿勢

最も大切なのが姿勢を考えることです。温めたりストレッチをすることで痛みは緩和しますが、姿勢が悪いとまた痛みを誘発してしまう原因になります。
・横になった姿勢
横向きなら「シムス肢位」がおすすめです。
抱き枕などのクッションを使うことでより姿勢が安定します。
仰向けなら「ふくらはぎ~足の下にクッションを入れて高くする」ことがおすすめです。
腰椎の前彎を抑制するだけでなく、むくみの予防にもつながります。
姿勢ではありませんが、ベッドや布団が合わないと腰痛の原因になります。
体が沈み込むような素材はおすすめできません。
・座った姿勢
骨盤をしっかり起こしてから背中にクッションをいれて安定させます。
足を組むことは、骨盤のゆがみをおこしやすいのでやめてください。
長時間の座った姿勢は、太ももの血管を圧迫し循環が悪くなってしまいます。
適宜、横になって体を休ませてください。
・立った姿勢
なるべく体を反らさない姿勢を意識してみてください。
骨盤ベルトの使用により、骨盤の安定をサポートし痛みの緩和につながります。
しかし骨盤ベルトの使用は必ず医師に相談し、正しい装着方法で長時間の使用は避ける方がよいでしょう。
・重いものを持つときの姿勢
基本的に重いものを持つのは避けてほしいのですが、どうしてもという場合や小さなお子さんがいる場合は抱っこせざるおえないと思います。
その時のポイントをお伝えします。
・低い場所から持ち上げるときは、膝を曲げて自分の重心も下に下げてください。
持ち上げるものと自分の重心が離れているほど、筋力を使う必要があるからです。
・子どもを抱っこする時は、子どもを自分の体に密着させ、肘を90°に曲げて腕に座らせるようにします。
てのひらで支えるような抱っこでは子どもの重心が下がって余計な筋力が必要になりますし、腱鞘炎になるリスクも高めるからです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?専門的な視点で妊娠中に腰痛になりやすいメカニズムをお伝えしました。
腰痛の軽減や予防につながって、心も体も整った状態で出産に望んでくださいね。
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