中絶(人工妊娠中絶)とは
妊娠初期の中絶
妊娠12週未満での人工妊娠中絶を指します。子宮の中身を掻き出す手術によって中絶を行います。手術については後でお話しします。
妊娠中期の中絶
妊娠12週から妊娠22週未満での人工妊娠中絶を指します。妊娠初期とは異なり、手術ではなく分娩の形で中絶するため、母体にかかる負担が大きくなります。
妊娠初期の中絶の手術方法
麻酔
静脈麻酔で行うのが一般的です。静脈麻酔とは、点滴のようにして薬を入れ、眠るくらいの麻酔をかけることです。
全身麻酔と混同している方がいますが、全身麻酔とは、自発呼吸を止めるくらい(そのため、口の中に管を入れて人工呼吸器につなぎます)のものですので、麻酔の深さがまったく違います。
手術方法
腟から器具を挿入して行います。事前に挿入したラミナリア、あるいはダイラパンを抜き、ヘガール拡張器という太さが少しずつ異なる棒を細い方から順番に子宮の中に入れていき、子宮頸管を十分に拡張させていきます。
次に、胎盤鉗子という先のまるい器具で胎嚢をつかみ、排出します。その後キュレットという細長い匙のような器具で子宮の中を掻き出します。手術時間は5分から10分程度です。
吸引法と掻爬法?
インターネットには「吸引法」と「掻爬(そうは)法」があるとされていますが、実際には器具の違いだけで大きな違いはありません。
吸引しながら掻き出せる器具があるというだけのことです。掻き出すのでも吸引するのでも、手術時間、母体に与える影響などは特に変わりはありません。
中絶手術までの流れ
前日
前日9時ごろからの絶食を言い渡されることが多いと思います。おなかがすくかもしれませんが、麻酔をかけたとき胃の中に食べたものが入っていると、吐いて気道に詰まることがあり、とても危険です。きちんと病院の指示に従うようにしてください。
当日朝
子宮の出口にラミナリアやダイラパンを挿入します。手術までゆっくり横になって待ちましょう。もし、この間に「中絶したくない」という気持ちが出てきたときはスタッフに申し出てください。
自己の判断による中絶手術の場合、迷いがあるうちは手術すべきではありません。ここまで処置をしても、手術を中止することはできますよ。
術後
麻酔が完全にさめるまで、ベッドで寝ておきましょう。麻酔がさめて、きちんと歩けるようになってからタクシーか、家族の方の運転で帰ります。
術後1週間程度は出血がありますので、ナプキンをこまめに替えましょう。
中絶にともなうリスク
子宮内が傷つく
上でご説明したとおり、子宮の中を掻き出す手術ですので、子宮の内側に微細な傷がつきます。1回の手術ではあまり影響があることはありませんが、中絶や流産の手術を繰り返すと、生理や妊娠に影響を起こす可能性が高くなります。
どういうことが起こるかというと、手術によって傷ついた部分が治るときに、張り付いてしまうことがあるのです。これをアッシャーマン症候群と言います。
アッシャーマン症候群とは?
子宮の中が前後に癒着し、しっかり張り付いてしまうと、その部分には、子宮内膜が形成されません。そのため、生理がこなくなったり、生理の出血量がかなり少なくなります。
妊娠はできないか、あるいは妊娠できたとしても流産しやすくなり、習慣流産(3回連続で自然流産すること)となることもあります。
流産の他には?
不妊症や習慣流産とまではいかずとも、次の妊娠に影響を及ぼすことはあります。通常、胎盤は子宮内膜(正確には妊娠後に脱落膜といわれる部分です)の上に載っていて、お産のときに内膜ごと剥がれるようになっています。
ところが、妊娠したときに内膜がない、またはかなり薄い部分に着床してしまうと、胎盤は内膜ではなく、子宮の壁に直接根を張ることになります。
これを癒着胎盤といい、お産の時に胎盤が剥がれません。したがってお産のときに出血が止まらず、母体の命を助けるために、子宮を摘出することもあります。
まとめ
日本では、年間約20万件の人工妊娠中絶が行われています。これは、出生数と比べると5分の1にあたります。人工妊娠中絶は経済的にも、精神的にもとても負担の大きい処置です。
望まない妊娠を防ぐために、避妊をきちんと行いましょう。低用量ピル、コンドーム、ミレーナなどの方法があります。また、避妊に失敗した場合は72時間以内であればモーニングアフターピルを処方してもらうこともできます。
望まない妊娠・中絶によって、傷つく女性が、ひとりでも減りますように。
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