松本理寿輝(りずき)氏とは

松本理寿輝氏 画像1,まちの保育園,本,

1980年生まれの保育園経営者。1999年一橋大学商学部商学科に入学、ブランドマネジメントを専攻するかたわら、幼児教育・保育の実践研究を始める。

大学卒業後の2003年、博報堂に入社。その後不動産ベンチャー経営を経て、ナチュラルスマイルジャパン株式会社を設立。2011年4月に開園した認証保育所「まちの保育園 小竹向原」(後に認可)は、新しい保育の実践を行う園として多方面から注目される。

現在、小竹向原、六本木、吉祥寺で「まちの保育園」を、代々木上原で「まちのこども園」を運営。2015年には、政府の一億総活躍国民会議メンバーに有識者として選ばれ、「ニッポン一億総活躍プラン」の決定に尽力した。

保育園にカフェやコーヒースタンドがある理由

まちの本とサンドイッチ,まちの保育園,本,

ーー「まちの保育園」はさまざまな特色がありますが、まず、通りかかった人は、カフェが設置されていることに驚かれるのでは?

松本 小竹向原園には、『まちのパーラー』というカフェがあり、六本木園の軒下にブックスタンドも兼ねたコーヒースタンド『まちの本とサンドイッチ』があります。

どちらも、保育園に子どもを預けていない方も利用できます。

園と“まち”の接点として、そして、園のカフェでなく“まちのカフェ”であってほしいので、距離感やセキュリティには配慮しつつ、お互いの雰囲気・息づかいが感じられる設計には苦心しました。

ーースタンドでは、お客さんのサラリーマンに、園児たちが一生懸命話しかけていました。

松本 コーヒーを待っているお客さんに、子どもがよく話しかけています。みなさん、息抜きの時間というのもあってか、意外と子どもの相手をしてくださるんです。

保育士資格を持つ店長の人柄もありますが、近くの子育てしているお母さんが悩みを相談に来たり、近隣のオフィスで働く女性がこのスタンドをきっかけに保育園に興味を持ち、ボランティアしてくださったりしたケースもあります。

園のカフェというより、園とまちの人々をつなぐ“まちのカフェ”であることを意識しています。

ーー園名もですが、「まち」という言葉がキーワードになっていますね。

松本 “まちぐるみ”で子育てし、子どもたちと“まちづくり”を手伝いたいと思い、園名もストレートに『“まちの”保育園』としました。

保育園をつくりたいと考えた20年近く前、『日本の未就学の子どもたちは、どういう環境で育っているんだろう』と考え、データや資料を読んだり、関係者に取材してリサーチしました。

すると、特に東京では、大半の子どもたちが保育園・幼稚園と家の往復生活になっていることがわかりました。地域の方との交流が、減っていたんですね。また、子どもたちが、どういう人に会っているのかも調べました。

家庭では核家族化と夫婦共働きが増加したものの、お父さんの育児参加時間は短く(当時は25分、現在でも40分くらい)、お母さんが家事・育児を担っていて、接する時間が長い。

一方、保育園の場合も、保育士の大半が若い女性(平均年齢が30代前半)という状況でした。これは今もあまり変化ありません。

ーー実際の世間には、もっと多様な人がいるにも関わらず。

松本 そうです。子どもから見れば若い女性と過ごしている時間が、その大半を占めている。子育ては、女性によって支えられているわけです。

後述しますが、0~6歳というのは人格形成期と言われ、その時期に“多様”な出会いを持つことが、非常に重要だと考えられています。

そして、まちを見渡すと、多種多様な人がいる。せめてもう少し、出会いのバリエーションを、子どもたちに提供できないかと思いました。

それは子どものためを思って発想したことですが、“まち”の中にもニーズがあると感じていました。お母さんの“孤育て”環境が、現代の子育て家庭を時に苦しめていることが言われていました。

また、独居老人やニート、引きこもりと言った言葉が社会問題として盛んに語られていたこともあり、それらは地域交流が希薄化していることで説明されることも多かったのです。

さらに、高齢者の方や、子育てをひと段落された親御さんなどは、子どもと関わる育児ボランティアなど、機会があれば参加したいという人が案外多いこともわかりました。

そこで、保育、幼児教育と地域が相互に有機的に関われる保育園なら、園の子ども達だけでなく、まちのいろんな人たちに喜ばれる仕組みになるのでは、と気付いたのです。

ーー具体的には、どんな取り組みをしていますか。

松本 私たちは、保育園を“まちのインフラにしたい”と常々、言っています。保育園、特に認可保育所は公的資金で運営していく施設ですから、いってみれば、まちの資源でもあります。

子どもの育ち・学びに地域の資源(人や施設)を活かしつつ、保育園がまちづくりの拠点として機能するという、互恵的な関係を築いていきたいと思います。

園と地域との境界をなくしていく工夫のひとつとして、『コミュニティコーディネーター(CC)』という、専任職員を置いています(おそらく日本初です)。

仕事は一口では言えませんが、ひとつに地域と保育園(子ども、保育士、保護者も)を結び付ける役割があります。

――実際に、地域と関わった事例を教えてください。

松本 例えば、こんなことがありました。

ちょうど子ども達がドラマなどの影響から、着物に関心を持ち始めたタイミングで、懇意にしている地域のギャラリーの方の紹介から、着付け師の方とつながることができました。

それも、普段からCCを中心に地域とコミュニケーションがうまくとれる関係を築けていたからだと思います。

“まちの資源”を“子どもたちの学びの資源”にできた時、実感するのは、子ども達の興味の領域がとても広がるということです。子どもたちは何と、自分たちでオリジナルの着物を作ったんですよ!

1回だけの着付け体験に終わるのではなく、そこまで着物を“探究”できたのは、子どもたちの力であり、周囲や地域の方々が子どもたちに真剣に向き合ってくださるからだと思います。

地域と保育園の関わりを考えるうえで、CCという職業に注目が集まり、最近は他の園でも取り入れられ始めています。

0~6歳という時期の重要性を、もっと知ってほしい

松本理寿輝氏 画像2,まちの保育園,本,

――先日、出版された著書『まちの保育園を知っていますか』では、就学前の時期の重要性を、たびたび指摘されていますね。

松本 最近、乳幼児期の重要性が、社会的な意義としても、個人に対する影響としても、世界的に注目されています。

0~6歳は“人格形成期”とも言われていて、非常に重要な時期であることが、さまざまな研究成果からわかってきているのです。

数字の話をすると、社会的な面で見れば、保育の社会全体の投資収益率が15~17%と言われているのですが、これは他の公共投資と比較してもずば抜けて高いと、大きな話題になったんです。

また、個人に対しては、0~6歳の『出会い』や『経験』の多様性、『学ぶ経験』が、学業の成績だけでなく、『やる気』『忍耐力』『協調性』などの非認知的能力を高めます。

そして、最も重要な心理的・行動的パターンは、0~6歳までに形成され、一度形成されてしまうと、小学校以降にそのパターンを変えるのが難しくなるとされ、つまり、この時期の環境が、その後の人生に大きな影響を与えているのです。

――それは衝撃的ですね。

しかし日本では、保育園というと“働いている親が、子どもを預ける場所”という認識が根強く、“専業主婦(主夫)の家庭の子は幼稚園で、小学校入学前に集団生活に慣れる”というイメージが一般的で、“就学前教育”という視点は強くないと思いますが、なぜ今、注目されているのですか?


松本 2020年度から、新学習指導要領での教育が始まります。アクティブ・ラーニング(※)の視点で、“知識の獲得”だけでなく、“学習態度”や“学習技能”がそれ以上に重要視されると示されています。

つまり、これまでのような、先生が教える(ティーチング)形から、子どもが自主的に“ラーニング”することが重要になります。

そこにつながるには、乳幼児期に“学ぶことが面白い”と、日常の中から経験を重ねていないと、その基礎は身につきません。

それには、人との愛着関係・信頼関係を築き、自己肯定感を高めることが大切ですが、家庭だけでなく、地域や保育園・幼稚園などで、“よい出会い”と“実体験”を充実させることが重要だと考えています。

※能動的学習。学ぶ姿勢や態度が、受動的でなく能動的なこと。何を学ぶかだけでなく、いかに学ぶかも重視される。

――世界的には、乳幼児教育から教育改革を行い、公的補助を増やして、質の高い保育を、親の就労の有無にかかわらず、すべての子どもに保障する方向に向かっているそうですね。

松本 幼児教育に投資することが、個人や社会にハイリターンのいい効果をもたらす、社会を成長させると肯定的にとらえられているんですよね。

日本でも、保育園と幼稚園の両方のよさを持ちあわせた“認定こども園”の制度が2006年からスタートするなど、少しずつ改革が行われてきていますが、もっとこの時期の重要性を社会で考えていかなければならないと思います。

――本には、「子どもにとって理想的な環境は、誰にとっても理想的な社会」とありました。

松本 大人も日々を充実して楽しそうに暮らしていくことが、結果的に子どもにとってもいい社会につながるのではないかと、強く感じています。

著書には、これまで保育の現場で見てきたこと・実践してきたことをふまえ、保育園にお子さんを通わせている方以外が読んでも、ヒントになることがあるよう書いたつもりです。

多くのパパ、ママに、目を通していただきたいと思います。

著書『まちの保育園を知っていますか』

まちの保育園を知っていますか,まちの保育園,本,出典:www.amazon.co.jp

商品情報
*参考価格:¥1,296
*メーカー:小学館
*著作者:松本 理寿輝
*ページ数:219

※掲載内容や連絡先等は、現在と異なる場合があります。